森田童子歌詞全曲集

愛情練習(ロシアン・ルーレット)

愛の調べに 目隠しした
あなたと踊ろうヨ ステップ
あの日のあなたと――。
あの夜がまわる――。
踊ろうヨ 踊りましょうヨ ステップ
愛はロシアンルーレットのようです
傷ついて あなたを傷つけて――。
ああ 白いドレス揺れて あなたきれいネ――。

愛の調べに 想い出しましょう
少しづつ 想い出しましょうヨ ステップ
夜が終る――。
あなた怖いのネ――。
踊ろうヨ 踊りましょうヨ ステップ
愛はロシアンルーレットのようです
あなたイルミネーション染まって――。
ああ 白いドレス揺れて あなたきれいネ――。

愛の調べに 息を殺して
あなたと踊ろうヨ ステップ
ワイングラスが――。
はじけて散った――。
踊ろうヨ 踊りましょうヨ ステップ
愛はロシアンルーレットのようです
おしまいネ もうおしまいかしら――。
ああ 白いドレス揺れて あなたきれいネ――。

哀悼夜曲

目覚めては
なつかしい
美しき日々よ

目をふせて
悲しい
美しき日々よ

歌っても
帰らぬ
若き日々よ

深き眠りのうちに
時よ 終れ

蒼き夜は

中央線の阿佐ヶ谷駅を降りて, 小さな店が並ぶアーケードをくぐり抜ける。左に曲って少し歩くと二階建ての古い私設郵便局があります。ぼくの住む常盤荘は, その裏手にありました。ぼくは, 今でも曲がりくねった細い路地に立つと, 君が, 向こうから歩いて来るような気がします。

春は まぼろし
ふたりは 悲しい夢の中
君と いっそこのまま
だめになって しまおうか
もどろうか
もどろうか
それとも もう少し
このまま 君と眠ろうか

春は まぼろし
やさしいばかりの今夜の気持
君は ぼくのひざまくら
眠れそうかい
眠れそうかい
眠れそうかい
それとも このまま
君と死んでしまおうか

春は まぼろし
淋しいだけの ふたりなら
何にも 云わずに
せめて 君と軽やかに
踊ろうヨ
踊ろうヨ
それとも このまま
君と落ちてしまおうか
君と落ちてしまおうか

赤いダウンパーカー、ぼくのともだち

電車が通るたび
なつかしくゆれる
チャーリーブラウンの店で
君を見つけた
赤いダウンパーカー
ぼくのともだち

あの頃君は
名画座の中で
いつもスクリーンの向うに
孤独を見ていたネ
赤いダウンパーカー
ぼくのともだち

そんなに悲しい
目をしてぼくを見る
昔にこだわる君の話
ぼくにはもう辛すぎる
赤いダウンパーカー
ぼくのともだち

弱虫で静かな君を
ぼくはとっても好きだった
君はぼくのいい友達だった
さよならぼくのともだち

君は少しの
酒に酔い
ぼくは君の淋しい寝息を
聞いている
赤いダウンパーカー
ぼくのともだち

何もなかった
ぼくたちの終りに
君と冷たい牛乳飲んで
声を出さずに笑った
赤いダウンパーカー
ひとごみに消えた

雨のクロール

1978年7月29日夏, 東京カテドラル聖マリア大聖堂に, 1,500人の人々が集まり, 休暇を利用して集まった友達は, 南は沖縄, 鹿児島, 京都, 名古屋, 北は青森へと帰って行った。僕もまた一夏の記憶とともに, 学生生活の甘美と痛恨の時が, 何時か, 僕の中を白日夢の様に確実によぎる事だろう。

夏の川辺に 二人は今日別れる
ぼくは黙って 草笛吹いた
ウフフフ~ ウフフフ~

君は花がらのワンピースおいて
静かに涙色のまぶしい水の中
ウフフフ~ ウフフフ~

雨に君の泳ぐクロールとってもきれいネ
雨に君の泳ぐクロールとってもきれいネ

夏がめぐりめぐってもぽくはもう決して 泳がないだろう

海が死んでもいいョって鳴いている

チィチィよ
ハァハァよ
あなたのいい子で
いられなかったぼくを
許して下さい
ぼくはひとりで
生きてゆきます

初めてタバコを
吸いました
悲しき嘘も
知りました
夕べあなたの
夢を見ました

声を出さずに
笑うくせ
悲しきくせは
下唇をかむ
窓にうつした
ぼくの顔

ぼくの声に
驚いて
目を覚ましました
僕は夢の中で
泣いていたようです

海が死んでも
いいョって鳴いてます
すさんでゆくぼくの
ほほが冷たい
誰かぼくに話しかけて
下さい

チィチィよ
ハァハァよ
あなたのいい子で
いられなかったぼくを
許して下さい
ぼくはひとりで
生きてゆきます

海を見たいと思った

夜汽車にて
ふと目を覚ました
まばらな乗客 暗い電燈
窓ガラスに もう若くはない
ぼくの顔を見た
今すぐ海を
今すぐ海を 見たいと思った

行く先のない 旅の果てに
ひとり砂浜に ねそべって
飲めない酒を 飲んだ
泣いてみようとしたが 泣けなかった

ある日 ぼくの
コートの型が
もう古いことを 知った
ひとりで 生きてきたことの
淋しさに 気づいた 
行き止まりの海で
行き止まりの海で
ぼくは ふり返る

狼少年・ウルフボーイ

地平線の向こうは
お母さんとおなじ
やさしさがある
だから ぼくはいつも
地平線の向こうで
死にたいと思います

地平線の向こうには
ぼくとおなじ
さみしさがある
だから地平線よ
ぼくが目を覚まさないうちに
遠くまでつれていって

地平線の向こうには
夏の草花が
咲きみだれています
だからぼくはいつも
君の胸に抱かれて
眠りたいと思います

アーア アーア アーア アー
アーア アーア アーア アー

狼に育てられた
ぼくは涙も笑うことも
しりません
だから ぼくはいつも
地平線の向こうで
死にたいと思います

地平線の向こうには
愛よりも深い
海がある
だからぼくはいつも
地平線の向こうに
沈んでゆきたい

地平線の向こうには
おかあさんと
おなじやさしさがある
だからぼくはいつも
地平線の向こうで
死にたいと思います
アーア アーア アーア アー
アーア アーア アーア アー

男のくせに泣いてくれた

夢のように はかなく
私の記憶は
広告写真みたいに
悲しく通りすぎてゆく
淋しかった 私の話を聞いて
男のくせに 泣いてくれた
君と涙が 乾くまで
肩抱きあって眠(ね)た
やさしい時の流れはつかのまに
いつか 淋しい 季節の風を
ほほに 知っていた

君と涙が 乾くまで
肩抱きあって眠(ね)た
やさしい時の流れはつかのまに
いつか 淋しい 季節の風を
ほほに 知っていた

風さわぐ原地の中に

風さわぐ 原地の中に
俺とお前が
涙ぐんで 立ってるヨ
まるで 記念写真みたいにサ
なつかしい故郷 目の前にして
丁度
ひと昔前と おんなじで
お前十七 俺十九の春だった

あばよ チマよ
俺とお前が
街から街を 流れたヨ
都会の夜の まぶしさに
眠るのも忘れて 遊んだヨ
丁度
すっからかんの文無しは
お前十七 俺十九の春だった

俺とお前は 幼なじみのように
いつもふたりだった
二つ年下のお前は
とてつもないことを 考えついては
俺を有頂天にした
そして
まわりの歯車と 合わない
俺たちに 気づいた時
二人はもう 若くはなかった
今 もう 二人でしかやってゆけない
俺とお前が ここにいる

帰れるものか あの娘のいる街へ
お前 地道にやれるというが
気ままに 生きた俺とお前が
帰れるはずがないじゃあないか
丁度
根無し草の泣き虫は
お前十七 俺十九の春だった

君と淋しい風になる

明日になれば
どのように
ぼくは
君を愛すだろう
時は 短かく
ぼくたちは
もっと短かい
形のない愛は
いつもぼくを すりぬけて
いつか ふたりは
淋しい 風になる

明日になれば
ぼくたちは
ひとり どうして
生きるだろう
君が いない
この朝は
もっと淋しい
形のない愛は
いつもぼくを すりぬけて
いつか ひとりで
淋しい 風になる

君は変わっちゃったネ

久しぶりだネ あなたは 元気ですか
とても大人びて
そんなふうに淋しそうに
笑うあなたを 見てると
言葉が とぎれて しまう
とても 長い時が 過ぎたのネ

久しぶりだネ ぼくは 相変わらず
甘い夢を追っています そんなぼくを
あなたは 子供っぽく
見えるかしら
とても 長い時が 過ぎたのネ

久しぶりだネ 本当に 久しぶりだネ
淋しかったぼくは
いまでもやさしいあなたの
そばにいると 涙が
こぼれてしまう
とても 長い時が 過ぎたのネ

逆光線

淋しい ぼくの部屋に
静かに 夏が来る
汗を流して ぼくは
青い空を 見る
夏は淋しい 白いランニングシャツ
安全カミソリがやさしく
ぼくの手首を走る
静かに ぼくの命は ふきだして
真夏の淋しい 蒼さの中で
ぼくはひとり
真夏の淋しい 蒼さの中で
ぼくはひとり
やさしく発狂する
ウーン ウーン ウーン
ウーン ウーン ウーン

夏休みのとても暑い日でした。郷里から送って来た杏の実が, 君の部屋一杯に散らばっていました。

球根栽培の唄(ときわ荘にて録音)

球根栽培の花が
咲きました
孤立無援のお前のように
机のすみで 咲きました

死んでしまえばいいと言い
酒を飲む
笑うお前の横顔は
どこかあの花に
似ています

淋しいページの音をめくり
長い思想のむなしさを読む
ぼくは どこまでも
ぼくであろうとし
ぼくが ぼくで
ぼくであろうとし
ぼくはどこまでも
ぼくであろうとし
ぼくが ぼくで
ぼくであろうとし
やがて
ぼくはモデルガン改造に
熱中していた
もうすぐ憎愛に変るだろう
ぼくの孤独な情念は
壁を突き通す一発の弾丸に
なるはずだった――。

ガリ版刷りのアジビラが
風に舞う
赤ヘルメットのお前が
ぼくを見つけて
手を振った

球根栽培の本を
知ってますか
孤立無援のいのちがもえて
花火のように咲きます

今日は奇蹟の朝です

不幸な時代に
ぼくたちは目覚めた
八月の海は どこまでも青い
アーア
今日は気持ちのいい朝です

砂浜にひとは
黒い影を 落す
まぶしい 日射しに
めまいする
アーア
今日は気持ちの いい朝です

白い雲が流れる
もうすぐ 夕立ち
ぼくたちは 奇蹟を 待っています
アーア
今日は奇蹟の朝です

八月の海は
悲しみ いっぱいに
今 聖母マリアが浮上する
今 聖母マリアが浮上する
今 聖母マリアが浮上する

きれいに咲いた

君とぼくが
肩をくんで
くるくる落ちてゆくウー
夜空に
花火みたいに
君とぼくきれいに咲いたアー

暗闇の中に写しだされた
夏休みの幻燈会のように
巨大な夢の旅客船が
深い霧の中へ
音もたてずにぼくをのこして
消えていった
ぼくはすでにあの時
ぼくの母と弟が
あの船に乗っていたような
気がしていたのです

船が沈む
君とぼくをのせて
しずかに沈んでゆくウー
夜空に
花火みたいに
君とぼくきれいに咲いたアー

グリーン大佐答えて下さい

私たちは幸せになれるでしょうか
私たちの祈りは届いたでしょうか
グリーン大佐答えて下さい

いまだ見ぬ母の手に
奇跡の海 モーゼ
屠所の羊の群れ

やさしき地平に
帰りて眠れ
悲しき旅人

私たちは幸せになれるでしょうか
私たちの祈りは届いたでしょうか
グリーン大佐答えて下さい

母の背に帰れ
盲目の兵士
青き海を渡れ

いまだ見ぬ母の船に
私たちは伝えよう
この悲しい夢を

私たちは幸せになれるでしょうか
私たちの祈りは届いたでしょうか
グリーン大佐答えて下さい

孤立無援の唄

ネェ何か
おもしろいことないかなァ
貸本屋の
のき下で雨やどリ
君は
むずかしい顔して
立読みしながら
本を盗んだ
ぼくの
自転車の
うしろで
孤立無援の思想を読んだ

春になったら
就職するかなァ
壁に向って 逆立して
笑った
机の上の
高橋和己は
おこった顔して
さかさに見える
どうして
生きていいのか
わからぬ ふたりが
畳の上に ねそべっている

ネェ何か
アルバイトないかなァ
君はモノクロ
テレビのプロレス見てる
ふたりはいつも
負け役みたい
でんぐリ返って
地獄がためだネ
窓ガラス
あけると
無難にやれと
世の中が 顔をしかめてる

ネェどうにか
やってゆけるかなァ
タッグマッチの
君が いないから
ぼくは
空を飛べない
年老いた
スーパーマンみたい
どうして
生きていいのか
解らぬぼくが
畳の上に ねそべっている

葉書き ありかどう
君といた時間が
長過ぎたのかもしれません
ぼくは もう少し
こうしていたい気持です
新しい背広を着た
真面目な君を見るのは
少し恐い気もしてます
でも 近いうちに
君に逢いたいと思います

サナトリウム

漱石の本
投げだして くちづけした
窓辺の 水の花
あざやかに
ふるえて あなたの ワンピース
白地に花が 浮きだして
とっても 淡くて きれいネ

ソーダ水ふたりで
飲んで とっても涼しいネ
あなたは チェリーを
ほおばって
別れは いつも つらい夢
今宵は もう 遅いから
あなたの 横顔 悲しそう

結核前夜のように
ぽくは よく同じ夢を見ます
それで ぼくは汗ばみっぱなし
だから
ぼくの左の肺の中は
水でいっぱいです
もうすぐ
ぼくの左の肺の中に
真赤な花が咲くはずです

淋しい雲

いつも君のあとから長い影をふんで
いつも君のあとからついてゆきたい
どこへ行くあてもなく ぼくたちは
よく歩いたよネ
夏の街の夕暮れ時は
泣きたいほど淋しくて
ぼくひとりでは とてもやって
ゆけそうもないヨ

君の好きなミセスカーマイケル
ぼくもいいと思うヨ
夏休みが終わったらもう逢えなくなるネ
そうしたら時々 なつかしいミセスの
話をしようヨ
夏の街の夕暮れ時は
泣きたいほど淋しくて
君ひとりでは とてもやって
ゆけそうもないから

どこへ行くあてもなく ぼくたちは
よく歩いたよネ
夏の街の夕暮れ時は
泣きたいほど淋しくて
ぼくひとりでは とてもやって
ゆけそうもないヨ

淋しい素描

浅き夢みし
人の世は
酔いを重ねて
ただ 悲し
泣くも
笑うも
ただ ひとり
いつか 畳に うつ附して
しばし 浅き眠り 春の夜

悲しき想い
あとにおかしく
死ぬことやめて
帰りきたり
暗き
部屋に
雨の音
眼の上に 腕附せば
しばし 浅き眠り 春の夜

ラジオ, 消しゴム, 万年筆, 新聞, 腕時計, 短歌, 岸上大作, 灰皿, マッチ, 窓, 雨, 4月1日, エイプリルフール

淋しい猫

夏がくると
芙蓉の花が 咲きます
小さな部屋に
お前は
足の悪いネコと住んでいた
死んでしまえば いいと云う
若いお前の口癖は
どこか あの花に 似ています

夏がくると
芙蓉の花が 咲きます
親不孝通りで
酒を
飲んでは けんか売る
古いコート襟立てて
24の春生きる術(すべ)なく
どこか あの花に 似ています

夏がくると
芙蓉の花が 咲きます
淋しがり屋の
お前が
可愛がってたネコを 捨てて
何処へ 行ったのか
雨にぬれてあいつは
芙蓉の花の下で
お前を 待っている

さよならぼくのともだち

君と僕は, 同じ線で結ばれた, 友達と言う, やさしい放浪者だった。君と二人して, 夜明けの街の荒々しい空気に酔い知れて, 二人はさまよった。何時か, 君と僕は, 同じ線で結ばれた, 友達と言う, やさしい放浪者だった。さよならぼくのともだち。

長い髪をかきあげて
ひげをはやした
やさしい君は
ひとりぼっちで ひとごみを
歩いていたネ
さよなら ぼくの ともだち

夏休みのキャンパス通り
コーヒーショップのウィンドウの向う
君はやさしい まなざしで
ぼくを呼んでいたネ
さよなら ぼくの ともだち

息がつまる夏の部屋で
窓もドアも閉めきって
君は汗をかいて
ねむっていたネ
さよなら ぼくの ともだち

行ったこともないメキシコの話を
君はクスリが回ってくると
いつもぼくに
くり返し話してくれたネ
さよなら ぼくの ともだち

仲間がパクられた日曜の朝
雨の中をゆがんで走る
やさしい君は それから
変ってしまったネ
さよなら ぼくの ともだち

ひげをはやした無口な君が
帰ってこなくなった部屋に
君のハブラシとコートが
残っているヨ
さよなら ぼくの ともだち

弱虫でやさしい静かな君を
ぼくはとっても好きだった
君はぼくのいいともだちだった
さよなら ぼくの ともだち
さよなら ぼくの ともだち

終曲のために 第3番「友への手紙」

ぼくが愛したともだちの
そして模型飛行機の
工作用ナイフで切った
指先の小さな傷あとを
ぼくはいつまでも愛した

ぼくたちのうちなるやさしさの
朝明けのアスファルトの上に
死んだ鳩の首すじの
やわらかなあたたかさよ

今 ぼくははるか
死の意味を飛ぶ
さよなら ぼくを愛さなかったともだちへ

151680時間の夢

どうせこの世は
曇りガラスを
すかしたようなものです
コスモス スミレ レンゲ草
都忘れ 星つづり
ただ ただ
スライド写真のように
景色が変ります
私が愛したあなたが見えない
私がいない

やがて 窓の外は
夜になります
夜にはサァーサァーと
雨が降ります

どうせこの世は
好きなように
生きてゆくものです
ききょう ねじ花 想い草
水仙 白百合 月見草
ただ ただ
夢を見せては くるりと
周りが変ります
私とあなたが
記念写真で 笑っています

やがて 世の中は
夜になります
夜にはサァーサァーと
雨が降ります

ぼくは昨日の続きの夢を見る
そして また その続きの夢の続きの夢を見る
だから ぼくの夢は もう夢ではないのです
ぼくは夢を151680時間も長い間 見続けているのです
もうやりなおせない程
いつの間にかぼくは
夢の中で生きてきてしまったのです

蒸留反応

長いマフラー
ふたりで 巻いた
君のかじかんだ
小さな手
ポケットの中で
冷たくて いい気持
雪よ降れ んーん
雪よ降れ んーん

去年の夏の
君の Tシャツみたい
白一色おおわれて
どこまでも
ぼくは 目を細めて
まぶしいヨ いい気持
雪よ降れ んーん
雪よ降れ んーん

白い向うへ
もっと白く
君のまつ毛に
雪が降って重たそう
ぼくの 口唇で
とかしてあげよう いい気持
雪よ降れ んーん
雪よ降れ んーん

ふたりの足跡
雪が消してゆく
ぼくが冷たくて
きみがつめたくて
ふたりの歯が カタカタ鳴って
おかしいネ いい気持
雪よ降れ んーん
雪よ降れ んーん

ぼくときみは
雪にうもれて
もう見えないヨ
白一色世界
ああきれいだネ
きれいだネ いい気持
雪よ降れ んーん
雪よ降れ んーん

G線上にひとり

夏草の上に
ねそべって
まぶしい孤独な
夢がひろがる

ひとり目ざめて
あくびして 涙ふいた
夏の空は
ヒコーキ雲

何にもいわない
六月の空は
ぼくの好きな
みずいろです

暗闇よ ぼくを呼べ
遠い記憶へ
あなたの ところへ
ぼくをつれてって

やさしい風は
ぼくをなでて
ひとりは とても
いい気持

夏草の上に
ねそべって
いま ぼくは
死にたいと思う

セルロイドの少女

すべるように
十七才のミドリちゃんは
決死の綱渡り
金粉塗った まぶたが
ふるえている

はるか希望を
見つめて ミドリちゃんは
青春逆立ち 宙返り
淋しいかっさいの中で
ミドリちゃんは 笑った

七色のライトが
夢の家族を呼ぶ
ああ、淋しい家族合わせ
火を吹く弟
母の水芸

一輪車で
十七才のミドリちゃんは
孤独の荒野 ひた走る
がんばれ がんばれ
ああ、家族合わせ

センチメンタル通り

いつか この町すてる時
君はひとりで 出てゆけるかい
みんな夕方になると 集まった映畫館
すっかりさびれて しまったけれど
今夜は久しぶりに 君とロックハドソンの
ジャイアンツでも しみじみ見たい気持ちだネ

いつか この町すてる時
君は笑って 出てゆけるかい
想い出多すぎるこの街を 捨てることができるかなァ
とってもこの店 淋しくなったけど
今夜はあの頃 なつかしんで
明るい目ヌキ通り しみじみ歩きたい気持ちだネ

いつか この町すてる時
君は涙みせずに 行けるかい
朝の始発の汽車で 君もあの娘と 行くのかい
今夜は何にも云わないで
昔みたいに 酔ってダンスを 踴ろうヨ
青春ってやつのお別れに

早春にて

君の好きな強い酒
あびるほどに 飲み明した
長い夜があった
淋しく二人眠った 始発の電車
ただ陽射しだけが まぶしく
話す言葉もなかった
悲しく 色あせてゆく 青春たち

黒いトックリのセーターと交換した
君の黄色のシャツを ぼくはまだもっています
もうすぐそこに夏はきています 君は 元気ですか

君の好きな黒いセーター
故郷へ帰る後姿
いつまでも見ていた
肩をたたいて ただ 友情だけは
信じると 淋しく笑った
君の顔 おぼえてる
悲しく 色あせてゆく 青春たち

たとえばぼくが死んだら

たとえば
ぼくが死んだら
そっと忘れてほしい
淋しい時は
ぼくの好きな
菜の花畑で泣いてくれ

たとえば
眠れぬ夜は
暗い海辺の窓から
ぼくの名前を
風にのせて
そっと呼んでくれ

たとえば
雨にうたれて
杏子の花が散っている
故郷をすてた
ぼくが上着の
衿を立てて歩いている

たとえば
マッチをすっては
悲しみをもやす
この ぼくの
涙もろい
想いは 何だろう

たとえば
ぼくが死んだら
そっと忘れてほしい
淋しい時は
ぼくの好きな
菜の花畑で泣いてくれ

たんごの節句

しょうぶ湯わかして〽
弟とがまんくらべ
窓の向こうに〽
一番星見つけた
思わずよみがえる幼い日のせつない想い
あざやか色の 吹流し
アーア アーア
あやめ 五月雨 たんごの節句

雨があがって〽
弟と川の中
やまめを 追って〽
夏虫鳴いて もう日暮れ
思わずよみがえる幼い日のせつない想い
過ぎた夏は 涙色
アーア アーア
あやめ 五月雨 たんごの節句

地平線

地平線の向こうには
おかあさんと
同じ優しさがある
だからぼくはいつも
地平線の向こうで
死にたいと思います

地平線の向こうには
ぼくとおなじ
淋しさがある
だから地平線よ
僕が目をさまさないうちに
遠くまでつれていって

アーア アーア

地平線の向こうには
夏の草花が
咲きみだれています
だからぼくはいつも
君の胸に抱かれて
眠りたいと思います

地平線の向こうには
血よりも赤い
夕焼けがある
だから傷ついた
戦士のように
故郷を思うのです

アーア アーア

地平線の向こうには
愛よりも深い
海がある
だからぼくはいつも
地平線の向こうに
沈んで行きたい

地平線の向こうには
おかあさんと
同じ優しさがある
だからぼくはいつも
地平線の向こうで
死にたいと思います

アーア アーア

伝書鳩

目にしみるぞ
青い空
淋しいぞ
白い雲
ぼくの鳩小屋に
伝書鳩が帰ってこない
ウウウウウー ウウウウウー
もうすぐ ぼくの背中に
羽根が はえるぞ
アアアアアー アアアアアー
朝の街に
ぼくの 白い カイキンシャツが飛ぶ
母よぼくの 鳩を撃て
母よぼくの 鳩を撃て
ウウウウウー ウウウウウー
ウウウウウー ウウウウウー
ウウウウウー ウウウウウー
ウウウウウー ウウウウウー

友よ泣かないのか

友よ
ぼくたちは 輝く日射しを
目ざすべきでは なかったのか
風よ 泣かないのか
時よ 泣かないのか
友よ 泣かないのか
新しい 朝のために

友よ
君も一緒に だめになるなら
ぼくも だめになっていいと思ったのです
夜よ 泣かないのか
故郷よ 泣かないのか
友よ 泣かないのか
新しい 朝のために

友よ
ぼくたちの限りなく 悲しみに
近い朝明けの空は
終りに 泣かないのか
荒野よ 泣かないのか
友よ 泣かないのか
新しい 朝のために

友よ
ぼくたちは 輝く日射しを
目ざすべきでは なかったのか
風よ 泣かないのか
時よ 泣かないのか
友よ 泣かないのか
新しい 朝のために

菜の花あかり

夜のなかを夜に溶けて, 夜を横切って, 夜を引き裂いて, ぼくは孤独な暗闇になろう。

春はやさしい
今宵は満月
短い命の
あなたは 十七
淋しいあなたと
どこへ行きましょう

夜風にゆれて
闇の夜に
淋しいあなたと
どこへ行きましょう

春はやさしい
菜の花畑
あたり一面
菜の花あかり

ニューヨークからの手紙

涙に にじんだ
四月の空よ
淋しき巨人 ニューヨーク
声をこらえて 私はあてのない
長い手紙 今日も書きます
季節の風が
吹いたらどうぞ 伝えてほしい
揺れる菜の花
恋人

ともだち どうぞ 私を 忘れてほしい

深いゆううつの
サブ・ウェイ
冬の海 ニューヨーク
ひとり 私の 白くはく息
うつろにとても 淋しい
季節の風が
吹いたら どうぞ 伝えてほしい
揺れる菜の花
恋人
ともだち
どうぞ 私を 忘れてほしい

驟雨(にわかあめ)

ぼくの水色のレインコート
風に鳴って 悲しみうたう
淋しさだけを かみしめて
君の思い出 ほほに 冷たい
涙まじりの北風は
遠く春を呼んで
君のいない街に ひとりぼっち にわか雨

ぼくの水色のレインコート
色あせて 想い出遠い
ぼくはただめぐりめぐる
淋しい季節を ひとり 歩いた
哀しみ覚えて風の中
タバコの煙淋しい
君のいない街に ひとりぼっち にわか雨

春爛漫

桜の花びら
踏んで 歩いた
君と肩くんで 熱くこみあげた
春よ 春に 春は 春の
春は遠く
春よ 春に 春は 春の
春は遠く
悲しみは 水色にとけて
青い空の 青さの中へ
青く 青き 青の 青い
青さの中へ
青く 青き 青の 青い
青さの中へ
哀しい夢 花吹雪 水の流れ
ンーン ンーン
春爛漫

ひとり遊び

チィチィよ
ハァハァよ
あなたのいい子で
いられなかったぼくを
許して下さい
ぼくはひとりで
生きてゆきます

声を出さずに
笑うくせ
悲しきくせは
下唇をかむ
窓にうつした
ぼくの顔

初めてタバコを
吸いました
悲しき嘘も
知りました
夕べあなたの
夢を見ました

海がぼくと死んでも
いいヨって呼んでます
すさんでゆくぼくの
ほほが冷たい
誰かぼくに話しかけて
下さい

チィチィよ
ハァハァよ
あなたのいい子で
いられなかったぼくを
許して下さい
ぼくはひとりで
生きてゆきます

ピラビタール

悲しいときは ほほよせて
淋しいときは 胸を合わせて
ただふたりは 息をこらえて
虫の音を 聞いていました
そんな淋しい 夏の終りでした

悲しいときは ほほよせて
淋しいときは 胸を合わせて
ただふたりは 目を閉じて
眠るのを 待っていました
そんな淋しい 愛の形でした

悲しいときは ほほよせて
淋しいときは 胸を合わせて
ただふたりは 夜のふちへ
ふるえて旅立つのでした
そんな淋しい ふたりの始まりでした

船がくるぞ

ネェ君
寒い夜の海を泳いで
みませんか
息がハッハッ つまりそうだ
体ジンジン しびれる
時々燈台のひかりが
ぼくを照らしてくれる
ぼくは
孤独に
クロール クロール

ネェ君
遠く霧笛が聞こえ
ませんか
大きな旅客船くるぞ
船の上で 誰か 手をふっている
クリスマスツリーのよう
キーラキラキラ 目がくらむ
ぼくは
水にもぐって
クロール クロール

ああ
なんて 明るいんだ!
まるで
夏休みの
臨海学校の
新しい
シーツをかぶった時みたいだ

ネェ君
夏の海へ行って
みませんか
船がぼくを越えてゆく
明るいクラクラ目が痛い
ここは夏の昼下り
砂浜も遠くも見えるぞ
ばくは
夏に向かって
クロール クロール

ネェ君
去年の海へ行って
みませんか
君が浜辺にねそべって
ぼくはサングラスをとる
浜ナスの花も咲いてる
ああ とても暑いネ
ぼくは
きみとならんでーェ
クロール クロール

ああ
なんて 暗いんだ!
ぼくは
ずっとひとりで
夜を歩いていたのですネ

ネェ君
夏の海が動いて
ゆくヨ
船が旋回しているヨ
まるで夕立雲みたい
夜と昼が二つに割れて
夜にとり残された
ぼくは
孤独に
クロール クロール

ああ これで真暗です

ふるえているネ

ぼくの
てのひらで
君は
ふるえているネ
ぽくの
やさしい
手の中で
このまま 君は 死ねばいい
飛べない ぼくの あげは蝶

ぼくが君の思い出になってあげよう

君は いつか
ぼくから離れて
ひとりで
大人に なってゆくのサ
ほんの少し
淋しくても 君は 都会の中で
ひとりで
やってゆけるサ

君が 忘れた
砂ぼこりの風が吹く
この街に
ぼくはいる
淋しかったら
いつでも 帰っておいで
ぼくは
待っていてあげよう

年上のぼくが
淋しいと云ったら
君は このぼくを
笑うかナ
さびれたこの街で
もう 若くはない ぼくは
君の
思い出になってあげよう

ぼくたちの失敗

仲間が, 何人も申し合せたように, 規則正しく集って来る喫茶店があった。いつも, アメリカへ行くことばかり夢見ている男。へたくそな自称詩人。売れない役者。映画青年。競馬新聞ばかり見ている退屈な男達。それは, 遊園地のメリーゴーランドのように, 騒々しく陽気でまた寂しいものだった。

春のこもれ陽の中で 君のやさしさに
うもれていたぼくは 弱虫だったんだヨネ

君と話し疲れて いつか 黙り こんだ
ストーブ代わりの電熱器 赤く燃えていた

地下のジャズ喫茶 変れないぼくたちがいた
悪い夢のように 時がなぜてゆく

ぼくがひとりになった 部屋にきみの好きな
チャーリー・パーカー 見つけたヨ ぼくを忘れたカナ

だめになったぼくを見て 君もびっくりしただろう
あの子はまだ元気かい 昔の話だネ

春のこもれ陽の中で 君のやさしさに
うもれていたぼくは 弱虫だったんだヨネ

ぼくと観光バスに乗ってみませんか

もしも君が 疲れてしまったのなら
ぼくと観光バスに 乗ってみませんか
色あざやかな 新しいシャツを着て
季節はずれの ぼくの街は なんにもないけれど
君に 話ぐらいはしてあげられる

ぼくの 小さな海辺の観光地に もうすぐ冬がきます
君も一度気がむいたら たずねて下さい 雅兄

もしも君が すべていやになったのなら
ぼくと観光バスに 乗ってみませんか
君と 今夜が最後なら トランジスターラジオから流れる
あのドューユワナダンスで 昔みたいに うかれてみたい
あのドューユワナダンスで 昔みたいに うかれてみたい

ぼくのせいですか

口に銜(くわ)えし 夏草の
君に口移(うつ)して くちづけの
夏の野辺は サワサワと
風にうねって 海のようです
去年の夏にあなたが
海で死んだのは
ぼくのせいですか

砂浜に影落して
前髪あげし くちづけの
海はやさしすぎて
海(なみ)を見ているだけでしたネ
去年の夏に あなたが
海で死んだのは
海のせいですか

ぼくは16角形

ぼくは淋しい勉強部屋から
無力なぼくの抒情を話そう
今日は 白い水仙一輪ざしで
少しやさしい気分
ぼくはページをめくり
思想のむなしさを読む
アッアッ
ぼくが
ぼくで
あろうとし
ぼくが
どこまでも
ぼくで
あろうとし
ぼくが
どこへ
どこまでも
どこかで
ぼくで
あろうとし
アーア アーア
アーア アーア

ぼくは 淋しい勉強部屋で
蒼いインクの血を吐く
ぼくは
斜めに
ねじれて
逆さに
宙づりだ

ぼくは流星になる

キーラキーラキラララ
お星様 キラララ
夏休みの午後の
プラネタリウムの暗がりで
ぼくは孤独に サザンクロス見つける
アッアーアー
流れ星見つけた

キーラキーラキラララ
お星様 キラララ
アパートの窓辺で
洗面器にお月様うつして
くやし涙で ぼくは顔を洗った
アッアーアー
お月様 こわれた

キーラキーラキラララ
お星様 キラララ
満員電車の中で
ぼくは左耳を押さえて
去年の夏の海鳴りを聞いてる
アッアーアー
地中海まできちゃった

ぼくを見かけませんでしたか

海へ行くには
どう行くのですか
それから ぼくは
どう生きるんですか
いつか 来た道
通りぬけて
  ぼくは 青春の
終りを さまよう
立ち止まると
暗い向こうに 海の音が聞こえる

ゆきかう電車の 窓越しに
真新しいセビロのぼくを
見かけませんでしたか

風に
一面にひろがる麦畑が
波のようにうねって
  まるで 海のようです
ぼくは いまひとり
北上川のほとり
旅の途上にいる

なくしたものは
なんですか
  目覚めた朝に
何を想うんですか
から松林 ぬけて
風の音 遠く
  ぼくの迷える
旅の終りに
人ごみに
大人になれない ぼくがいる

ゆきかう電車の窓越しに
真新しいセビロのぼくを
見かけませんでしたか

 

ぼくを見つけてくれないかなァ

夢さりし後に
何もない ぼくが
ただポケットに 手を入れて立っているヨ
誰か ぼくを見つけて くれないかなァ――。
ひとりで埋もれていく このぼくを
見つけたら 声をかけて
くれるかなァ

覚えていますか
今日は 雨が降って
君の好きな あじさいの花きれいです。
誰か ぼくを見つけて くれないかなァ――。
いつも バカな夢を見てるぼくを
雨に濡れてます
ぼくに傘を貸して下さい

小さな生き方を
少しづつ覚えて
きたような そんな気がしています
誰か ぼくを見つけて くれないかなァ――。
君が ぼくを見つけて くれないかなァ
ぼくを見て
君は 笑ってくれるかしら

まぶしい夏

玉川上水沿いに歩くと
君の小さなアパートがあった
夏には窓に竹の葉がゆれて
太宰の好きな君は 睡眠薬飲んだ
暑い陽だまりの中 君はいつまでも
汗をかいて眠った

あじさいの花よりあざやかに
季節の終りの蝉が鳴いた
君から借りた 太宰の本は
淋しいかたみになりました
ぼくは汗ばんだ なつかしいあの頃の
景色をよく覚えてる

みんな夢でありました

あの時代は何だったのですか
あのときめきは何だったのですか
みんな夢でありました
みんな夢でありました
悲しいほどに
ありのままの君とぼくが
ここにいる

ぼくはもう語らないだろう
ぼくたちは歌わないだろう
みんな夢でありました
みんな夢でありました
何もないけど
ただひたむきな
ぼくたちが立っていた

キャンパス通リが炎と燃えた
あれは雨の金曜日
みんな夢でありました
みんな夢でありました
目を閉じれば
悲しい君の笑い顔が
見えます

河岸の向うにぼくたちがいる
風の中にぼくたちがいる
みんな夢でありました
みんな夢でありました
もう一度やりなおすなら
どんな生き方が
あるだろうか

憂鬱デス

畳にうつぶしては
おもしろくなく
体をねじってみては
おかしい
ただ自堕落に
おぼれてゆく日々に
ひとりここちいい
明日に祈る気持もなく
明日に生きてみる

悲しい夢に目覚めて
歯を磨く
洗濯の乾き
淋しいにおい
ただ何もなく
青いだけの空は
ひとりここちいい
明日に祈る気持ちもなく
明日に生きてみる

淋しき夕辺に
郷里からの小包を開き
ひとりサクサクと柿を喰らう
やがてのどもとに冷たく
腹にしみる
ひとりサクサクと柿を喰らう

逆立して見ては
ひとりごと
物干し台の猫が
逃げた
ただ自堕落に
おぼれてゆく日々に
ひとりここちいい
明日に祈る気持もなく
明日に生きてみる

ラスト・ワルツ

美しき明日に
ついても語れず
ただあなたと
しばし この時よ
すべてが なつかしき
この時よ
すべてが終る
この夜に
せめて 最後に ラスト・ワルツ

この暗き部屋の
窓から
街の灯は まばゆく
自由が 見える
すべてが 遠き
この時よ
このまま 若い日が
終るのなら
せめて 最後に ラスト・ワルツ

美しき明日に
ついても語れず
ただ あなたと
un deux trois
すべてが帰らぬ
un deux trois
すべてが 終る
un deux trois
せめて 最後に ラスト・ワルツ

麗子像

麗子は暗い部屋の中
西の空が もえています
麗子は 指を切りました
白い包帯 蝶結び
見えぬあなたに
恋をしてふるえます

麗子は裸足で庭の中
月を雲が かくします
麗子の胸は はりさけそう
白いドレスが 円をかく
自分に恋して
ショパンのワルツを踊ります

麗子は熱にうかされて
ひとり遠い森の中
苦いアスピリン左手に
針のない置き時計
麗子は去年の
夏の海の まっただ中に

麗子は黒いアイマスク
深い眠り さかさまに
淋しく落葉ならして
四頭びきの馬車が走ります
麗子の十七才の冬が
終ります